『たんぽぽのお酒』レイ・ブラッドベリ

青春なレイ・ブラッドベリ『たんぽぽのお酒』

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レイ・ブラッドベリといえば『華氏451度』(Fahrenheit 451)。

『華氏451度』(1953年)
レイ・ブラッドベリ

『勝手にしやがれ』で有名なフランソワ・トリュフォー監督が映画化したほぼ同名映画(映画タイトルは『華氏451』で「度」がない)をみたのが先か、原本を読んだのが先かはもう忘れてしまったが、ラストに全ての本を燃やしてしまうことに耐えられなかった良心ある人々が森に逃れ、それぞれが一冊の本を丸ごと暗唱しながら歩き回る姿と、彼らが原始の昔のような焚き木を囲むシーンが目の裏に焼きついている。

でもこのイメージって本当に目で見たシーンなのか、私の頭のなかで本と映画から抽出した印象的なシーンを抽出したものなのか・・

とにかく、人類と文明の未来にとってあまりに象徴的で美しくて哀しいシーンだったので、こんな本を書く作家ならとりあえずファンになろうと思った。

こう言うとかなり単純ちゃんだけど、当時はこの作家の他の本を読んだかどうか、とかはどうでもよかった。

何かが心に響くとき、そこに説明なんて必要ないのだ。
必要なのはこれだ!という瞬間をつかみ取る感性と信じることができる自分の直感だけ。

特に若いときはそういう直感で行動する方が普通だと思う。

経験がない、というコンプレックスは常にあったけれど、それでも信じることができる揺らぎない自分があった。
これって貴重なことだ。
大した根拠はないけどとりあえず自分が信じられるということ。

自分の前で繰り広げられる日々のちっさなドラマを、自分の目で見て、耳で聞いて、体全体で感じることを繰り返しながら自分というものを信じられるようになる基礎を少しずつ築いていく。
苦しいけど毎日のキラキラ度も半端じゃない人生の一季節。

こんな風にファンになった作家や映画や歌、イッパイあったなーとつくづく思う。

ちょっと話は逸れるが、私は「たんぽぽ」の英語「ダンデリオン」という言葉が昔から大好きだった。

ダンデライオンといえば、ユーミンの歌『ダンデライオン〜遅咲きのたんぽぽ』。
1983年発売ってことはもう三十年以上前!
でも、1973年発売のユーミンの『ひこうき雲』も2013年製作のジブリ映画『風立ちぬ』で主題歌としてカムバックしたことだし、いい歌って本当永遠不滅だもんね。

『ダンデライオン ~ 遅咲きのたんぽぽ』松任谷由実

・・こんな表紙だったんだ・・

でこのダンデリオン、変な名前?と今更調べてみたら、花がフランス語のDent-de-lion(ライオンの歯)が由来なんですと。
フランス語との不思議なご縁がこんなところにぽろり。


『たんぽぽのお酒』
日本語版

そして、そのたんぽぽ関連のレイ・ブラッドベリの作品が、『たんぽぽのお酒』(Dandelione Wine)。

少年ダグラスの十二歳の夏の出来事を、第一日目から本当に大切にキラキラと生き綴った物語。

特に、テニスシューズを買うお金が足りないダグラスと靴屋の店主サンダーソン氏とのやりとりのシーンを読んだとき、十二歳の自分にとって一足の靴が人生の中でどれほどの重要だったかが、すごい力強さで目の前にイメージが立ち上ってきた。

当時、自分が本当に履いていた校則をちょっと破って選んだテニスシューズのモデルと形と共に。

(日本語版がなかったので、以下英語原文) ↓↓

“Please!” Douglas held out his hand. “Mr. Sanderson, now could you kind of rock back and forth a little, sponge around, bounce kind of, while I tell you the rest? It’s this: I give you my money, you give me the shoes, I owe you a dollar. But, Mr. Sanderson, but soon as I get those shoes on, you know what happens?”

“What?”

“Bang! I deliver your packages, pick up packages, bring you coffee, bum your trash, run to the post office, telegraph office, library! You’ll see twelve of me in and out, in and out, every minute. Feel those shoes, Mr. Sanderson, feel how fast they’d take me? All those springs inside? Feel all the running inside? Feel how they kind of grab hold and can’t let you alone and don’t like you just standing there? Feel how quick I’d be doing the things you’d rather not bother with? You stay in the nice cool store while I’m jumping all around town! But it’s not me really, it’s the shoes. They’re going like mad down alleys, cutting corners, and back! There they go!”

Mr. Sanderson stood amazed with the rush of words. When the words got going the flow carried him; he began to sink deep in the shoes, to flex his toes, limber his arches, test his ankles. He rocked softly, secretly, back and forth in a small breeze from the open door. The tennis shoes silently hushed themselves deep in the carpet, sank as in a jungle grass, in loam and resilient clay. He gave one solemn bounce of his heels in the yeasty dough, in the yielding and welcoming earth. Emotions hurried over his face as if many colored lights had been switched on and off. His mouth hung slightly open. Slowly he gentled and rocked himself to a halt, and the boy’s voice faded and they stood there looking at each other in a tremendous and natural silence.

 

子供時代、こういう人生の感触なかったっけ?

もうどうでもいいからこの一個のものを保持してみたい!
そしたら人生ぜーんぶ変わるのにっていう!

この文章はそういう単純で健康な感触を思い出させてくれた。

よかったよ、こういう文章に出会って。

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