名門映画学校の入試『コンクール』
先週、ラ・フェミス(La Fémis)という通称で知られる映画の名門学校の入試を撮影したドキュメンタリー映画を観た。
『コンクール』(原題:Le Concours)=入学試験。
ラ・フェミスの正式名称はフランス国立映像音響芸術学院(École Nationale Supérieure des Métiers de l’Image et du Son)、合格率は3%、最も難関な監督科は1%と言われている。
その卒業者者はフランス映画界を支える大御所てんこ盛り、アラン・レネ、パトリス・ルコント、フランソワ・オゾン、アンドレ・テシネ、ジャン=ジャック・アノー、ノエミ・ルヴォヴスキとリストは尽きない。
あの『勝手にしやがれ』のジャン=リュック・ゴダールも受験したとのことだが、どうやら受からず、だが後にラ・フェミスに講師として招かれていたというから、別にこの学校に入るだけが映画界に入る唯一の手段ではない。
が、卒業生はほぼ全員映画界入りすることができるという、世界的に評価の高い学校であり、映画批評誌の『ハリウッド・リポーター』や『バラエティ』誌でも常に世界最高の映画学校のひとつにランクインしている。
そんなレベルの高い学校、しかもフランス人かEU出身者だったら学費はただ同然に安いので、めざさないほうがおかしい!が入れない!数回チャレンジする受験者も珍しくない。
だが、一般受験は27歳までの年齢制限があるのでそこまでに入らないとアウト。
映画界経験者であれば年齢制限は30歳までになる。
この映画『コンクール』は、クレール・シモンというドキュメンタリーを中心に活動している女性監督の作品だが、彼女自身、この入学試験の責任者をしていたことがあり、その経験が映画界で生きていくことを目指す学生たちのエネルギーを是非カメラに収めたいという企画に発展したらしい。
今は昔とはいえ自分も通ってきた受験の道、小論文と面接・実地試験が中心の、日本とは全く異なる受験形式。
ギュウギュウの大講堂で膝をつきあわせながら受験者が必死で論文に挑み、タイムアウトになってもまだしつこく書き続けている受験者が結構いるところもフランスらしい。
なによりこの映画の面白いところは、スポットが当たっているのが受験生よりむしろ審査官の方なところ。
質疑応答が終わって候補者が去った後、あれやこれやと時にはケンカ腰で必死で議論している審査員の人間性とかモノの見方が滲み出ている。
講師は映画界現役のプロのみ、という刺激的な環境で「この学校には教師もいないし生徒もいません!」と断言して始まる審査員会議。
1998年にフランスではちょっと話題になったくらーい作品『ア・ヴァンドル(売り出し中)』(原題:A vendre)以来、レティシア・マッソンの監督作品は一本も見てなかったのだが、なんとこの『コンクール』の審査委員として画面に一番登場しているではないか!
どうやら現在、ラ・フェミスの監督科ディレクターを務めているってさ。
このマッソン監督が審査員長を務めていた2014年のフィルム分析の課題は、黒沢清の『贖罪』だったよう。
昔一緒に仕事していたカメラマンもラ・フェミスで教えていたことがあると言っていたけど、いろんなプロが関わってるんだなー。
一旦受験に受かったらアルバイト三昧、というのはあり得ないフランスの高等教育。
入るまでも大変だけど、入ってからはもっと頑張らないとついていけない。
とにかく頭にモノゴトが入りやすい若いうちにどんどん勉強しておかないのは一生の損だべ!